ちりめん街道 重要伝統的建造物群保存地区【京都府・与謝野町加悦】

丹後ちりめんと共に生きた町 重伝建 ちりめん街道

四 生活「ちりめん街道の今」

 

「素晴らしい町だと気づいた」

高級織物「丹後ちりめん」がもたらしたこの町並み。そこには志高く生きた先人達がいました。そしてその結果、この建造物群が今でも存在するのです。

しかし、時代は移ろうもの。その形が永遠に変わらない、ということはあり得ません。丹後ちりめんもしかしたらその価値観は、産業の変化や高度成長の中で、薄れていったのかもしれません。

激動の時代を超えて、ちりめん街道は今、住民たちの静かな生活の場となっています。観光地として開発されたわけでもなく、また当時の「全て」がそのまま残っているわけでもありません。時代と共に、少しずつ変化してきたのです。

ところが近年、傷んでいく建造物や減っていく織り機の音を目の当たりにし、住民たちの心が動き始めました。そして丹後ちりめんの歴史を知り、現状を知った上で、この町を保存しなければならないという使命感を感じ始めたのです。ご紹介した通り、大学との連携によって建造物の調査が進められ、その結果を知るごとにその価値の高さが失われつつあるという現実に触れたのです。

「素晴らしい町だと気づいた」

今では景観維持や保存のために、様々な取り組みがされています。各住宅を改修し、建物の保存を行うのはもちろん、地元商工会や行政が協力し作り上げる街道イベントの開催、街道にまつわる歴史等の勉強会、そして丹後ちりめんや町のためになることを…という想いから、手作りの丹後ちりめんの和装小物や行灯などを自分たちの手で作る、といった動きも。派手な動きではありません。しかしこの地道な活動が、町並みの保存につながるのです。

ちりめん街道まるごとミュージアム

ちりめん街道まるごとミュージアム

手作り行灯がともされ、街道筋で一斉にバザー等が行われるほか、養蚕、生糸、織物の守護神に繁栄を祈願する「金色蚕糸神祭(こんじきさんししんさい)」などが催されます。前夜祭では、旧尾藤家住宅での演奏会も。

 

町並みの保存とは何か?

この重要な町並みを保存するということは、一体どういうことなのでしょうか。ちりめん街道を守り育てる会の会長、藤田史郎氏はこう語ります。

「保存には有形と無形の2つが存在します。有形という意味では、空き家をどう活用するのか、後継者の無くなる家屋をどう修復し、保存していくのか。過疎化も大きな問題です。また無形という意味では、なぜこの地区が重要伝統的建造物群保存地区に選定されたか、その歴史や文化的背景を後世に伝承していくことです。この2つをそれぞれ考えながら、ただ修復するという意味ではなくて、活用していくことが保存につながると思っています」

住民の生活空間であるちりめん街道にとって、保存とは生活そのものです。人が活用しない建造物は廃れていく…この町で生き続ける住民と、それを支援する人、丹後ちりめんを織り続ける人たちがいて初めて「保存」は成り立つものだと痛感させられます。

藤田史郎氏

ちりめん街道を守り育てる会会長。自身もちりめん街道界隈の住民であり、ちりめん街道の保存と活用のために尽力している。

何も無い場所には本当に何も無いのだろうか

 

21世紀は心の時代と言われています。

行く先々で、物的な出会いを期待することはもちろんです。しかし、同時にそれだけではどこか虚しさを感じる、理由は分からないけれど満たされない気分のままである、現代にはそんな寂しさがあります。

ちりめん街道は、新しい時代に向けて「活用という名の保存」をスタートしたばかりです。物的な要素としては、まだまだ少ないかもしれません。しかし、この建築物が立ち並ぶその歴史的背景に触れる事で、心で感じることは出来る…それが出来るのは、「物的な要素が少ない場所」の良さではないでしょうか。

全国、または世界の皆様との出会いの中で、故郷の価値を常に再確認しながら、時を刻んでいきたい…もし、このちりめん街道にお越しになったなら、自立心を持ち、町の発展に取り組んだ先人達の心意気を胸の片隅にそっと感じながら、どうぞごゆっくりと、町並みを鑑賞していただいて織り機による丹後ちりめんの息吹を感じて頂ければ幸いです。

下校する子どもたち

下校する子どもたち

夕方頃になると下校する子どもたちの声が静かな街道筋に響く。

ちりめん街道ウェブサイト > 丹後ちりめんと共に生きた町〜四、生活「ちりめん街道の今」