少し前に丹後を訪れた時のお話になります。私は冬の時期に丹後を訪れることをとても楽しみにしていました。この季節とても寒いのでは?と少々心配だったのですが、幸いにもこの冬は今までの所、非常に穏やかな気候とのことでした。
以前より、この地域で冬にしか食べられない食や素材についてお話を聞いていて、とても楽しみにしていました。夏の旅でも美味しい食事をいただきましたが、やっぱり冬場の丹後半島で特に有名なのは「カニ」のご馳走!
今回は以前訪れた伊根から少し離れた京丹後へと向かい、美食をいただきました。この時期の日本海は灰色でとても冷たそうにも見えましたが、やはり大好きな海を眺められることにワクワクしていました。
到着したのは強風の中で日本海を見下ろすことのできる、美しく近代的に設計された間人温泉「炭平」。真下の海岸には波が打ち寄せており、そこからの眺めも素晴らしかったですが、すぐに居心地の良い温かなインテリアの部屋に案内いただきました。炭平旅館は丹後半島最北端の間人(たいざ)という漁村にあります。蟹の漁期は11月7日に始まり、3月中まで続きます。 ここでは限られた5隻の漁船だけが「間人ガニ」を獲ることを許可されているそうです。コースとしてまずは季節の料理とコッペガニ、雌ズワイガニ、程よい塩味と卵いっぱいの前菜が用意されました。
その後はいよいよメインディッシュ。振る舞われた全てのお料理は、様々な方法で調理された間人カニのフルラインナップでした。カニ味噌に浸した刺身に舌鼓を打ち、沸騰したお湯に落としてしゃぶしゃぶにしたり、炭火で蟹の足を炙ったり、甲羅の上で煮たりしていただきました。
私たちは美味しいおやつを楽しむ様に蟹の甲羅に地元のお酒を注いで飲み、シメにお鍋のお出汁からおじやを作りました。ここで十分満腹にはなったはずでしたが、なぜか甘いクリームを添えた柚子柑橘アイスを入れるのには十分な胃袋のスペースが残ってたんですね(笑)
これは私が今まで味わった中でも特別美味しい食事の一つで、また冬場にこの地域に行く方には、蟹のフルコースを是非お勧めします。
「カニ宴会」の後、私は長い間訪問を熱望していた、とあるエキサイティングな場所に連れて行っていただきました。そこは「民谷螺鈿(らでん)」さんの織物工房です。そこでは真珠や鮑など、様々な国の様々な貝殻が細かくシートにスライスされ、緻密かつ極めて慎重に和紙の上に貼り付けられています。そこから横糸としてスライスされ、上質なフォーマル帯に個々に織り込まれていきます。深海にひっそりと隠れていた貝殻たちの表面が角度を変えて青や紫、緑色に光輝きます。
民谷さんの工房では、これらの糸を2年間以上も手間暇をかけて豪華な打ちかけのウェディングドレスに織り込まれています。そのテキスタイル自体がエキゾチックで、他の素材で製作・表現することのできない希有な美しさをあらわしています。
デザインモチーフの多くは鳳凰など伝統的な平安時代のデザインですが、民谷さんの工房では現代的な幾何学模様にもトライしたり、異なる素材を横糸に織り込んだり、着物だけではなくインテリアなどその他の商品や用途にも展開されています。
この工房からこれからも多くの人をエキサイトさせる新たな作品や製品が生み出されることをとても楽しみにしています。この日、食べ物とテキスタイル両方の「ご馳走」を味わうことができて大変感謝でした!
(日本唯一 “狛猫” が守り神の 金刀比羅(ことひら)神社 にて)