コロナウイルスの影響で今後、着物づくりはどのように変化していくでしょうか。パンデミックから復興に向けたチャレンジが求められると思いますが、創造性と才能を発揮し体現している着物職人がいるとしたら、その一人は間違いなく柴田織物代表の柴田祐史さんだと思います。今回は柴田さんをメインにご紹介していきます。
工房見学の様子
ZOOM対談の様子
柴田さんのお家は代々、機織りの工房を経営されていました。柴田さんご自身は元々、都市部で電機メーカーの設計士として働かれていましたが、20年以上前に家業を継ぐことを決意し帰郷されました。当時身に付けられた技術力やエンジニアリングの知識は非常に重宝されていて、今もなお織機のメンテナンス、工房全体の運用管理など十分に生かされています。
柴田織物のものづくりで特によく知られているのは「縫取(ぬいとり)式」の着物作り。緯糸に金や銀をコーティングした糸を使って、高級感あるキラキラした糸で織られた着物を作る手法です。しかしながら近年このようなフォーマルな式典用の着物需要が減ってきたため、時代の変化に合わせて、柴田さんも多種多様なアイテムを織られるようになりました。
柴田さんの作る着物には、男性用の種類がとても増えてきています。従来の男性用着物は無地がほとんどで、柄ものなどこれまであまり多様でお洒落ではなかったかと思います。しかし柴田さんは、まず自分が着物ユーザーとして着たいと思うデザインは何かを考え、様々面白いアイデアを出されてきました。その発想はとても意外かつユニークで、出来上がった着物はモダンでありながらスタイリッシュです。
例えばこちらのスネークスキンの生地。蛇柄は昔からおしゃれ小物に使われていましたが、着物に織り上げることで、とてもダンディな男物に仕上がっています。
また、こちら鉄板の十字のデザイン。一見控えめですが、近くで見ると、柿渋で染めた糸が、金糸のような存在感を主張しています。羽織紐は鎖で編んだもので、インダストリアルな雰囲気を醸し出しています。
そして、こちらの中近東のブルーのモザイク柄は、日本の浴室タイルから着想を得た帯と合わせて、美しい着物とのコントラストを際立たせています。
また最近では、「不思議の国のアリス」の物語を女性の着物に織り込んだ力作を発表されており、先月私もTV出演させていただいたNHK総合「世界はほしいモノにあふれてる」の着物特集でも紹介いただきました。これら全てのデザインを織りの技術で仕上げるのは、想像以上に複雑なのだそうです。
また新たな人気アイテムとして、着物の下に着る長襦袢用の絹地があり、こちらは洗濯可能なものです。これは絹織物の世界では嬉しい発展ですね!
私の印象では、柴田祐史さんのような人は「ルネッサンスマン」なのだと思います。織物の世界で生き残っていくためには、本当に多くの技術を身に付けなければいけません。ルネッサンスマンは芸術家のような創造性とインスピレーションを持っていますが、コンピューターを操ってデザインを作り、それを織機にプログラミングする方法、また織機の設定や操作方法も知る必要があります。
小さな工房から誰も見たことがない新しいデザインが生まれてくるのを見るのはとても刺激的なことです。今後も丹後の地で、このようなクリエイティブが続いていくことを願っています。