橋立の 陰晴須臾や 秋の海
天橋立を横一文字に眺めるまちの名勝、大内峠の妙見堂の周囲には多くの句碑を見ることができます。そのうちの一つ、小室洗心(こむろせんしん)の句碑には、秋の丹後ならではの天候が詠み込まれています。
橋立の陰晴須臾(いんせいしゅゆ)や秋の海 洗心
作者の小室洗心(1877~1970)は本名を小室萬吉といいます。俳人・郷土史家で、与謝蕪村の丹後時代の研究も盛んに行いました。天橋立をこよなく愛し、多くの橋立句を詠むとともに、さまざまな文人をこの地に招き、自ら案内しました。与謝野鉄幹・晶子夫妻もまた、洗心の案内でここ大内峠を歩いています。
『岩滝町誌』によれば、この句は俳誌『ホトトギス』で高浜虚子(たかはまきょし)の選に入ったもので、大内峠での作ということです。
句中に「須臾(しゅゆ)」という耳慣れない言葉があります。これは十のマイナス十五乗(1000兆分の一)を示す数の単位で、転じて「ほんの少しの間」の意味となります。
雨雲の下でどんよりと翳った天橋立と、逆にどこまでも晴れ渡る絶景とが、短い間に目まぐるしく展開する。ここ大内峠から見下ろせば、そのどちらの姿も、秋の阿蘇海に抱かれている…
急に雨が降ったかと思えば一転して日が差す、「うらにし」と呼ばれる日本海側特有の不安定な秋の天候と天橋立とが組み合わされています。日本三景と言えどけっして年中絵葉書のような景色ではないが、そうした変化さえも愛おしい…地元俳人の気概が窺える一句です。
ご紹介した句碑は、与謝野町岩滝地区にある大内峠、一字観公園内にある妙見宮の参道途中に静かに佇んでいます。一字観公園駐車場から、管理等の左側にある小さな坂を登ると妙見宮、その奥の階段を降るとすぐ右側にあります。
一字観公園駐車場からスタートの場合、山の上側から下へ下る形になります。一字観公園に入る前、山道途中にある「長命いっぷく名水」付近から始まっている参道をスタート地点として、階段を登って到達もすることもできます。
参道では木々のざわめきと鳥たちの声を聞きながら、おだやかな、かつ凛とした空気感を味わっていただけることでしょう。