一ひけば まつそれでよし 松六里
大内峠は昔から紅葉の名所であったためでしょうか、秋の俳句を刻んだ句碑が多いなか、石段の中ほどに一基、地元俳人による無季(季語の無い)俳句の句碑が残っています。
一ひけば まつ(ず)それでよし 松六里(まつろくり) 樗(おうち)
木崎樗句碑 大正十年建立
作者は木崎樗。本名を木崎清三といい、嘉永三年(一八五〇)、当時の弓木村に生まれました。『岩滝町誌』によれば、若くして出奔して京都や東京で商人として活動し後に帰郷、晩年になって俳句に親しんだといいます。俳号は大内峠の別名である樗嶺にちなんだものでしょうか。
句中の「松六里」はもちろん天橋立の松並木のこと。大内峠から見る橋立の大パノラマ、その美しさを絵にするには、ただ一筋「一」を引けばまずは事足りる、と詠んでいます。
古来より天橋立の見方、楽しみ方はさまざまですが、真横に眺める「一字観」ならではの一句といえます。
また、かつて丹後に滞在した与謝蕪村がこの地を離れるにあたって描いた「天橋図賛(てんきょうずさんさん)」は、まさにこの句のような描かれ方をしています。極太の一刷毛で橋立の砂洲をあらわし、薄墨で松の幹と葉を簡略に描いており、俳句的な省略の極みといえる一作です。
ご紹介した句碑は、与謝野町岩滝地区にある大内峠、一字観公園内にある妙見宮の参道途中に静かに佇んでいます。
一字観公園駐車場から、管理等の左側にある小さな坂を登ると妙見宮、その奥の階段をしばらく下ると、右側にあります。この付近にはその他の句碑も点在しています。
一字観公園駐車場からスタートの場合、山の上側から下へ下る形になります。一字観公園に入る前、山道途中にある「長命いっぷく名水」付近から始まっている参道をスタート地点として、階段を登って到達もすることもできます。
参道では木々のざわめきと鳥たちの声を聞きながら、おだやかな、かつ凛とした空気感を味わっていただけることでしょう。