千年の 心つなぎて 黒椿
与謝野町加悦地区、奥滝の「ちんざん」から加悦椿文化資料館に渡る橋の手前に、京都府指定天然記念物「滝のツバキ」を詠んだ句碑を見ることができます。
千年の心つなぎて黒椿 汀子
作者の稲畑汀子氏は高浜虚子の孫にあたる俳人で、日本伝統俳句協会の現会長、俳誌「ホトトギス」の名誉主宰です。
平成8年、椿文化資料館の開館を記念して開始した「江山文庫俳句大賞」の選者としてこの地を訪れ「滝のツバキ」を詠んだものです。同じ時には次のような句も詠まれています。
ともかくも千年椿みるまでは 汀子
千年の椿に結ぶえにしかな 同
句にあるように、千年椿と愛称されるこの椿の樹齢は、実はよく判りません。一説には500年とも600年とも、1000年とも1200年とも言われていますが、科学的な根拠はありません。
ところで、皆さんのお宅の庭木の椿やご近所に自生するヤブツバキを見ると、木がマツやヒノキのような勢いでは大きくならないことに気付かれるのではないでしょうか。
椿は原種・園芸種ともに生長が遅く、その椿の中にあってこれほどの樹高・幹周りのものは非常に稀で、国内有数の長寿の椿であるということで、京都府天然記念物の指定を受けています。
また「黒椿」とありますが、花弁の色が特に濃いことなどからくる通称で、植物分類学上は原種のヤブツバキです。
庭木や街路樹、野山に自生のものなど、皆さんの暮らしにも身近なヤブツバキ。それが人智を超えた歳月を重ねて屈指の巨木に育ち、さまざまな時代の人々の心と心、さらには自分自身の心さえもひとつにつなぐ、そんな縁(えにし)をうたっているのではないでしょうか。
この句碑は与謝野町の奥滝、加悦椿文化資料館付近にあります。加悦椿文化資料館は、写真をご覧いただければお察しいただけるかと思いますが、椿の花弁の形を模した、非常にユニークな外観。周辺では川のせせらぎが心地よく聞こえ、山間ののどかな風景と気持ちのよい空気を味わっていただけることと思います。
同資料館では京都府指定文化財「滝のツバキ」の案内を行うとともに、展示室では「滝のツバキ」に隣接していた大和田集落の暮らし等を紹介するほか、「滝のツバキ」の鑑定者である日本ツバキ協会名誉会員の渡邊武博士より寄贈された数多くの椿にまつわる美術工芸品などを展示しています。
また、資料館から1kmちょっと山奥に入ったところに「滝の千年ツバキ公園」があり、大椿があります。ツバキは与謝野町の「町の木」でもあり、シンボル的な存在です。