岩むろに 一夜籠らむ 霜の声
与謝野町が誇るつつじと奇岩の名所、岩屋雲岩(うんがん)公園の稲荷堂には、甫尺(ほせき)という江戸時代の宮津俳人の俳句を刻んだ句碑が残っています。
岩むろに 一夜籠らむ 霜の声 甫尺
季語は「霜の声」で冬。しんしんと冷え込む夜半、霜が降りる気配を音がするように感じたものです。
筆跡の元となった自筆の屏風の記述によれば、甫尺の母親は岩屋村の出身で、亡母の供養をかねて雲岩庵に法華経一部八巻を奉納し、門人や俳友ら16人とともに百韻(ひゃくいん)を連ねたということです。(百韻=五七五の長句と七七の短句を交互に連ねて百句に至る連歌や俳諧の形式のこと)
文中では頂上の雲岩(くもいわ)の窪地に安置された元禄13年(1700)作の弥勒菩薩坐像(みろくぼさつざぞう)について触れており、続けて冒頭の句が記されていることから、「岩むろ(室)に一夜籠らむ」とは、山上で句作に耽(ふけ)る自分たちの姿を、岩の中の弥勒菩薩になぞらえたものではないでしょうか。
【甫尺】(生年不明~1804) 宮津に生まれ同地の紺屋の下絵職人となったのち京都に出て、与謝蕪村と交流のあった俳人三浦樗良(ちょら)に俳諧を学びました。俳句だけでなく絵画にもすぐれ、蕪村の影響を思わせる俳画を多く残したことから「丹後蕪村」とも呼ばれました。前述の屏風にも百韻興業の様子が描かれています。
句碑は昭和初年に岩屋西林寺の文格和尚が屏風中の甫尺の句の写真を引き伸ばして刻んだもので、稲荷堂の縁板を切り欠き、堂に一体化したような形で設置されています。
与謝野町岩屋地区にあるミツバツツジの名所「雲岩公園」内にある雲岩稲荷神社。巨大な岩の上に建てられた稲荷神社に「めりこむように」句碑が残されており、古代に遡ったような不思議な感覚を覚える場所です。神社からは岩屋の里が展望台のように一望できます。
駐車場からは若干、山道を徒歩で上がることになります。稲荷神社付近を超え、さらに進むと公園の名称にもなっている「雲岩(くもいわ)」が。雲岩は、文珠菩薩を警護する毘沙門天の乗ってきた雲が岩になった伝説の巨岩です。その周りには4月上旬に約5,000本の山つつじが美しく咲き誇ることから、山つつじの名所として有名です。公園内にはこぶしの大木があり、雲岩から見る景色もまた感動的です。